Answer4.
健康診断などで検査を受ける目的は、病気を早期に発見し治療することです。胃のバリウム検査(以下、胃X線検査)の場合、X線による透視を使用し、何枚も撮影を行うため”被ばく”を伴います。そのため「がんを発見するための検査によってがんになるのではないか?」と心配されますが、放射線検査の”利益”と”リスク”について考えます。検査で得られる利益(病気を見つけて治療すること)とリスク(被ばくによる影響)を天秤にかけ、利益がリスクを上回ることを前提に検査が行われます。これが”正当化”と言われる部分です。今回、検診を受けたことで「①今、病気を早期発見し治療すること」が「②今後、被ばくによる影響でがんになるリスクが上昇すること」より、利益として実感できることが正当化として必要と考えます。①について、人間ドックで胃X線検査を受けた場合の胃がん発見率は0.12%であり、胃がん発見率の許容値(精度管理プロセス指標基準値)0.11%以上を満たすため、検査として有効であると考えられます。また、胃X線検査の有効性評価は推奨グレードBとされ、胃内視鏡検査と同等のグレードであり、死亡率減少効果を示す相応な証拠があるとされています。②について、1検査当りの被ばく線量の指標(直接撮影100mGy、間接撮影50mGy)に対して、胃X線検査における実行線量と入射表面線量(基準撮影法Ⅰ:4.41mSv、33.97mGy、基準撮影法Ⅱ:5.15mSv、46.92mGy)は線量指標を満たします。
以上のことから、胃X線検査は正当化として利益が上回ると実感できます。また、必要最小限の被ばく線量で検査を提供していることから”最適化”も十分に行われており、実行線量50mSv以下による確率的影響(発がん、遺伝的影響)の増加は、その他の因子(喫煙など)に比較し非常に小さいことを考慮すると「今、病気を早期発見し治療すること」を優先すべきと考えられます。
Answer5.
放射線検査でのリスクは現実に確認されているわけではありません。推定される危険性という意味です。例えば腹部CT検査が行われ、その組織・臓器線量が20mGyであった場合のリスクを考えます。
被ばく線量が100mSv以下で明らか(統計的に有意)になっているリスクはありませんので、放射線防護上で使用されるLNT(直線しきい値なし)モデルからリスクを推定します。
なお、LNTモデルは放射線防護上のリスク推定ですので個人に対して用いることは誤った使用方法となります。よって、一般的なリスクとして推定されますが、相談者個人に当てはまるかどうかは別の問題です。個人の健康影響は人それぞれ違います(人によって変わる)ので、がんにならないような生活習慣を心がけて暮らすことが大切です。
医療被ばくに限度は設けられていません。
受けるメリットが被ばくをするデメリットを大きく上回ったとき検査が行われています。放射線量は性質上厳しく管理していますので、健康を守るために必要な検査は心配しないで受けてください。
Answer6.
64列や320列という表示はX線を受ける検出器(Detector)の列数を表しています。CTは機械が体の周りをX線を照射しながら、回転して画像を得るため、検出器(素子)の大きさが同じであれば、列数が多いほど1回転で広い範囲を検査することが可能です。
被ばく線量を評価する際は、さまざまな因子が作用するため、検出器の列数が多い、少ないという因子での議論は一概にはできません。よって、診断参考レベルで規定されている放射線量には検出器の列数による差はありません。
被ばく線量の差に影響する因子としては、ビームピッチの影響が大きく作用します。ビームピッチは、X線束が1回転する間にテーブルがどれくらい動くのかを表しています。(ビームピッチ=CTテーブルの移動距離㎜/X線束の幅㎜)X線束の幅が16㎝とした際に、X線管球が1回転する間にテーブルが16㎝移動すると、ビームピッチは1となります(X線束は重ならない)。また、X線束の幅が16㎝とした際にX線管球が1回転する間にテーブルが8㎝移動するとビームピッチは0.5となります(X線束が半分ずつ重なっている)。逆に、X線束の幅が16㎝とした際にX線管球が1回転する間にテーブルが24㎝移動すると、ビームピッチは1.5となります。
ビームピッチが小さい場合は、被ばく線量は多くなりますが、一般的に良質な画像が得られます。ビームピッチが大きい場合は、被ばく線量は少なくなりますが、画質は低下する傾向になります。しかし、ビームピッチが大きい場合は、短時間で広範囲の撮影が可能となるメリットがあります。
検査目的に合わせて、最適なビームピッチを用いた検査が行われています。
Answer7.
CTはX線の透過量(吸収量)の差を用いて生体内を画像化しています。MRIは強い磁力と電波を用いて、体内の水素分子の共鳴現象を利用して生体内を画像化しています。MRIは放射線被ばくは生じません。
MRIでは高磁場空間に患者さんが入る必要があるため、人工内耳やペースメーカー(除細動を含む)を装着している方は、誤作動などの危険性があるため、一部の器具を除き検査できません。また、脳動脈瘤へのクリップや血管内ステントおよびコイルまたは整形外科領域でのインプラント(体内金属)などの金属では虚像(アーチファクト)を生じることがあります。MRIは撮像の原理上、1つの撮像に数分から十数分を要します。1回の検査で複数の撮像を行いますので、20分から40分程度の静止が困難な場合や体動がある場合は実施困難です。また、電波の共鳴により大きな音が発生するため小児などには麻酔が必要な場合があります。「空間分解能(写る細かさ)」は数ミリ程度ですがコントラスト分解能(明瞭さ)が高く、軟部組織の検査を得意とします。また骨のX線吸収による偽画像が発生しないため、頭部など骨に囲まれた臓器にも有効です。
CTは0.3~0.5秒程度の高速で装置が患者さんの周りを回転するため、1検査時間が数秒~十数秒とMRIに比して、短時間で実施可能です。これを「時間分解能が高い」と評価されます。救急医療など急いで診断から治療を要する場合や動きのある臓器(心臓、消化管、肺など)には威力を発揮します。医療機器にはそれぞれ特徴があり、医師は患者の病態や状況に応じて、最適な検査方法を選択しています。
Answer8.
マンモグラフィは、X線を用いて撮影用の板を入れた台とプラスチック板に乳房を挟んで撮影する検査になります。超音波検査は、超音波をあてて、その反射波を画像にする検査です。
早期の乳がんは石灰化を伴うことがあります。この石灰化はマンモグラフィ検査を行うと見つけやすい特徴があります。それに対して、超音波検査は石灰化を見つけることは苦手ですが、しこり(腫瘤性病変)を見つけることに優れています。
| マンモグラフィ検査 | 超音波検査 | |
| 得意 | 早期のがん、非浸潤性のがん、石灰化、脂肪が多い乳腺組織内のしこり | 乳腺組織が豊富な中にあるしこり(マンモグラフィ検査よりも早期に検出可能) |
| 不得意 | 乳腺組織が豊富な中にあるしこり | 石灰化や脂肪内の小さなしこり |
Answer9.
妊娠期間中でおなかの赤ちゃんが放射線の影響を受けやすい時期は、妊娠初期の頃で受精から8週間くらいまでの期間です。ただし、マンモグラフィ検査の場合、検査部位が下腹部以外になりますので検査を受けても心配ありません。ICRP(国際放射線防護委員会)は妊娠初期の放射線被ばくにより影響が発生する可能性がある最低線量(しきい線量)をその被ばく時期に応じて表の様に報告しています。
| 流産(受精~15日) | 100mGy |
| 形態異常(受精後2~8週) | 100mGy |
| 精神遅滞(受精後8~15週) | 300mGy |
この線量を越えて被ばくすると必ず影響が発生するということではなく、100mGy程度では数%の割合で起こる可能性がある線量であることに注意してください。しかしマンモグラフィ検査をはじめとする通常の放射線検査ではしきい線量を超えるような線量を受けることはないので、妊娠中絶の必要はありません。
当院は、放射線検査を受けた際の被ばくに不安を感じている患者様へ、医療被ばくに関する相談窓口を開設しました。
相談窓口では、放射線検査での被ばくリスクを正しく理解していただき、 被ばくに対する不安の解消を目的としてお話をさせていただきます。
ご自身やご家族の方の放射線検査での被ばくに対して、 不安やお悩みがある方は是非ご相談ください。ご相談の対象は、当院かかりつけの患者様のみとさせていただきます。
医療法人永仁会 永仁会病院
病院長:宮下祐介
0229-22-0063(代表)
ご相談の対象検査
①一般撮影検査(レントゲン検査)
②CT検査(単純CT・造影CT)
③マンモグラフィ
④X線透視検査(X線TV検査)
⑤歯科X線検査
⑥血管造影検査(PTAなど)
⑦その他、放射線に関すること
詳 細
Answer10.
授乳中は乳腺が発達していて、病変を見つけることが困難なので、原則検査はしません。しかし、必要な場合は撮影することがあります。X線は乳房を透り抜けていくので、乳房や母乳の中に放射線が残ることはありません。
Answer11.
マンモグラフィをはじめとする診断に用いるX線は、身体に影響が出ないレベルになります。さらに、使用する放射線の量もなるべく低くなるように検査をしています。これまでにマンモグラフィ検査による被ばくでがんが増えたという事実は確認されていません。
マンモグラフィをはじめとする放射線検査は病気の早期発見、治療効果の判定などで行います。検査により受ける放射線の身体的影響については、多くの研究機関・関連学会が研究報告を行っています。医療現場ではこれらの研究結果を踏まえ、放射線検査により得られるメリットとリスクを計ったうえで、メリットが大きいと判断された場合に放射線検査を行う判断をしています。診断の必要に応じて適切な放射線検査をを行っていますので安心して検査を受けてください。非侵襲的に短時間で行える放射線検査は有用であるといえます。
Answer12.
40歳代でも乳がん検診を受診する必要があります。定期的に検査を受ける場合も、期間が空くことで体の中では放射線の影響に対する修復効果が期待できるため、毎回の線量を加算して影響を心配する必要はありません。マンモグラフィ検査における乳房の被ばく線量は2mGyであり、病期の早期発見、早期治療を行う上で、放射線検査は必要といえます。
Answer13.
撮影目的によって、パノラマ撮影とデンタル撮影の両方を撮影する場合があります。撮影法は歯科医師が「正当化」を前提として選択します。撮影時に使用する線量は「最適化」していますので、不安になることはありません。
正当化:放射線診断により疾患を見つけるという利益とそれに伴う放射線被ばくの不利益を考え、検査を指示する医師の責任のもと、必要があると判断された場合に検査を実施します。
最適化:放射線診断において、画像情報の質を担保し、検査を受ける人の線量をできるだけ少なくしなければなりません。そのために、放射線診療用装置の管理、再撮影の防止、照射時間の短縮、照射野の絞りなどを放射線診療従事者は常に実践しています
Answer14.
X線撮影では、目的以外の部位にX線が当たらないように照射野を絞っています。デンタル撮影(口内法X線撮影)では、X線が出る部分が直径6cm以下の筒でなければならないことになっています。よって直径6cmの円以外の部分にはX線は当たりませんので、影響も極めて少ないです。防護エプロンを使用するのは、散乱線を目的部位以外に当てないという目的がありますが、散乱線の量はさらに少ないので、身体への影響を心配する必要はありません。
当院は防護エプロンを装着して撮影しています。患者様への被ばく線量を低減するためというよりは、患者様の心理面への配慮のためと考えています。
Answer15.
ある病気の経過を観察するということは、その患部の予後がどうなっているのか、再発はしていないかなど絶えず注意して観察する必要があります。経過観察のための撮影において、放射線被ばくによる影響の発生は極めて少ないので安心してください。
Answer16.
妊婦さんご本人、ならびに胎児を放射線被ばくから可能な限り防護する考え方(ALARAの原則)から申し出をお願いしています。
ALARAの原則:放射線防護の原則は、「行為の正当化」「防護の最適化」の考え方になります。「行為の正当化」では放射線を使用する行為においては、もたらされる便益(ベネフィット)が放射線損益(リスク)を上回る場合のみ認められるという原則です。これは医療で使用される放射線のみならず放射線被ばくを伴う活動全てが対象となるので、緊急時被ばく状況等でも正当化は求められます。「行為の正当化」がなされた後、「防護の最適化」が求められますが、「防護の最適化」は個人の被ばく線量や人数を経済的および社会的要因を考慮に入れた上で、合理的に達成できる限り低く保つこととされています。この原則はALARA(as low as reasonably achievable)といわれています。重要と考えるところは合理的に達成できる限り低く保つという部分で、必ずしも被ばくを最小化するということではないということです。